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現役医師が解説!医師の働き方改革のポイントをわかりやすく解説

本記事では2024年4月から始まる医師の時間外労働の上限規制、いわゆる「医師の働き方改革」についてわかりやすく解説していきます。

目次

医師の働き方改革施行の背景にある「医師の時間外労働」

突然ですが、みなさん。現在の日本の医療は「医師の自己犠牲的な長時間労働に支えられており、危機的な状況にある」ということをご存じでしょうか?

厚生労働省「令和元年 医師の勤務実態調査」によれば、病院常勤勤務医の37.8%が一般的に過労死ラインとされる月80時間の時間外労働を行っています。

その内の8.5%は過労死ラインの2倍である月160時間もの時間外労働を行っています。

引用:厚生労働省「令和1年医師勤務実態調査」

厚生労働省「STOP!過労死パンフレット」によると、時間外労働が月45時間を超えて長くなるほど脳・心臓疾患の発症の可能性が高くなり、月100時間超または2~6か月にわたって80時間超の時間外労働でさらにリスクが高まります。

さらに、人間は睡眠をとらずに17時間以上起床し続けていると、酒気帯び運転に相当するレベルまで作業能力が低下するといわれているので、長時間労働を強いられる医療現場では医師の判断力が鈍りやすく、治療する患者さんの予後を増悪させやすい環境といっても過言ではありません。

参考:Dawson, D. et al. Nature 388, 235(1997)

こうした背景もあいまって、医師本人の健康を維持し持続可能な医療提供体制を構築すると同時に、患者・国民に対して提供される医療の質・安全を確保することを目的として、医師の働き方改革が施行されることとなりました。

問題点:医師一人当たりの業務量が多すぎる

医師は昼夜を問わず患者への対応を求められる過酷な職業です。

医者の主な業務(一部)
  • 入院患者診察
  • 外来患者診察
  • 手技・手術の施行
  • 病院運営管理
  • 研究・論文作成
  • 後進の医師・コメディカルの指導
  • 紹介状・保険関係の書類作成

図表でみる医療 2023:日本」によれば、日本における人口当たりの病床数はOECD※平均の3倍、また平均在院日数はOECD平均の2倍以上であると報告されています。

一方で人口当たりの勤務医の人数はOECD平均が2.1人/1000人であるのに対し、日本では1.9人/1000人と少ないのです。勤務医に限定せず、人口当たりの現役医師数で比較した場合には、OECDの中で日本はワースト5位と圧倒的な少なさを誇ります。

分かりやすく言うと、

大川裕輝

日本では患者さんがたくさん入院する、しかも一度入院するとなかなか退院しない。でも入院患者を管理する勤務医の業務量が多くて、仕事を分担する医師の数は少ない。

ということです。

しかも平均余命は依然OECDの中で日本は最も長く、今後も高齢者の増加に伴う医療需要はさらに高まるものと考えられます。

医療ニーズも生活習慣病や悪性腫瘍治療を中心とする慢性期疾患に変化してきており、個々の患者さんが医療を必要とする期間も長期化してきています。また、医療の高度化が進んだために知識の蓄積や技術の修練により多くの時間を要求されるようになってきています。

また、救急、産婦人科、外科、若手等の医師はさらに労働が長時間化する傾向が強いとされ、少子高齢化が特に進む地域においても同様の傾向が見られ、診療科・地域間の医師偏在も問題となっています。

患者さんへの基礎的な問診や書類作成、カルテ記載など必ずしも医師としての専門性が必須とされない業務においても医師が担当していることも多く、業務が医師に集中していることも問題視されています。

大川裕輝

超過労働を防ぐために労務管理がしっかり為されるべきであるのですが、労働基準法36条に規定された「36協定」を締結していない医療機関が存在していたり、客観的な時間管理が行われておらず超過労働が見過ごされている医療機関が存在することも大きな問題です。

医師の長時間労働を抑える為に施行される解決策

前項で挙げられた種々の問題点を解決するべく、働き方改革には様々な解決策が盛り込まれています。

長時間労働を抑えるための解決策(一例)
  • 地域医療構想、外来機能の明確化を行うことにより医療施設の最適配置を推進すること
  • 地域枠の設定、診療科シーリングなどによる地域間・診療科間の医師偏在の是正
  • 国民の理解と協力に基づく適切な受診の推進

また、タスクシフト・タスクシェアを推進しコメディカルの業務範囲の拡大を図ることで、医師業務の一部を分担出来るよう法改正が予定されています。

2024年4月から施行される内容のうち、医師の実労働に与える影響が大きいと考えられるものが時間外労働の上限規制と、健康確保措置の適用です。

医師の時間外労働の上限規制と3つの規制水準

引用:厚生労働省「働き方改革をめぐる最近の動向」

労働基準法で定められた労働時間の限度は1日8時間および1週40時間とされており、毎週少なくとも1回の休日が取得されることを原則としています。

この原則を超えて労働者に時間外労働をさせるためには、雇用側が労働基準法36条に基づく労使協定である「36協定」を締結し、所轄労働基準監督署長へ届け出ることが必要です。

36協定が締結されていた場合には、原則月45時間まで、年360時間までの時間外労働までが可能となります。

ただし、臨時的な特別の事情があって労使が合意した場合(特別条項)には月100時間まで、複数月にまたがる場合は2~6か月の平均が月80時間まで、年720時間までの時間外労働が可能となります。

医師も労働者である以上、上記に記された水準と同等の労働時間内に収めることを目指して労働時間の短縮に取り組むように提言されています。

しかし、現在の医療は今なお医師の過重労働、時間外労働に支えられていることから、医療提供体制の確保の為には緩和された別の規制水準を設けざるを得ないという判断が為されました。

そうした背景の中、A水準、連携B/B水準、C-1/C-2水準という大きく分けて3つの規制水準が設けられました。

医師業務内容別、水準の振り分け方
  • 長時間労働を必要としない場合にはA水準
  • 常勤の施設に加えて外勤先でも労働を行うために長時間労働が発生する場合には連携B水準
  • 夜間、休日、時間外労働が頻繁に発生する「忙しい病院、忙しい科」で働く場合にはB水準
  • 修練のために労働時間が長くなる専修医や初期研修医であればC-1水準
  • 6年目以降の医師で、特定の高度技能の習得のために労働時間が長くなる場合にはC-2水準

分かりやすく二つに大別して表現するのであれば

・長時間労働を必要としない場合には月80時間まで、年960時間までの時間外労働が可能

・何らかの理由のために長時間労働を必要とする場合には月155時間まで、年1860時間までの時間外労働が可能

と言えます。

大川裕輝

B以上の水準を満たす医師が所属する医療機関は対応する水準についての指定を受ける必要があります。ただし医療機関がB以上の水準についての指定を受けたとしても、医師個人が長時間労働を必要としない場合にはその医師個人はA水準となる点に注意しましょう。

医療面接、連続勤務時間制限、勤務間インターバル、代償休息

引用:医師の働き方改革概要

今回の働き方改革には、医師の健康確保を目的とした面接指導の実施や休息時間の確保等の項目も盛り込まれています。

A水準、B水準、C水準のいずれにおいても月100時間以上の時間外労働が見込まれる医師には、他の医師による面接指導が実施され、さらなる超過勤務が発生しないよう対策することが義務付けられます。

また、A水準では努力義務、B水準とC水準では努力義務と差異はあるものの、いずれの水準においても休息時間の確保が必要となります。

具体的には以下の項目が定められています。

医師の働き方改革:休息時間について
  • 1回の連続勤務時間が28時間以内に制限されること
  • 勤務時間と勤務時間の間の休息(勤務間インターバル)が9時間以上確保されること
  • 勤務間インターバルの間に時間外労働を行った場合、翌月末までに時間外労働と同じ長さの休息時間(代償休息)を取得すること
大川裕輝

日勤は仕事が忙しくて夜遅く帰っても9時間以上の休息。当直の日は、昼に退勤してそのまま翌朝まで18時間以上休める。休息時間の間に残業や呼び出しで労働したら労働した分だけ別日に休息時間が取れる。そう考えると、ずいぶん仕事がしやすくなりますね。

自己研鑽と時間外労働、宿日直許可と時間外労働について

いかに勤務時間の上限が厳格に定められていていたとしても、勤務時間外の労働が時間外労働として計上されず自己研鑽と見なされてしまうようでは意味がありません。

厚生労働省「医師の研鑽と労働時間に関する考え方について」によれば、労働時間は労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価されることができるか否かにより客観的に定まるとされています。

平たく言えば、上司の命令によって仕事をしている時間は労働時間であるということです。

上司の命令は必ずしも明示されている必要はなく、黙示の指示であってもよいとされており、事実上殆どの業務は時間外労働に該当すると言えます。むしろ業務上必須ではない自己研鑽を行う場合には、時間外労働と区別するために自ら上司に申し出ること、と記されています。

例えば業務に必要な準備行為や後始末、指示があった場合には即時に業務に従事するために待機している時間(オンコール)、業務上必要な学習・研修・教育訓練の受講など、これらは全て労働時間として扱われる例として挙げられています。

なお、上記の指針はあくまで厚生労働省が示した取り扱い案に過ぎず、自己研鑽と時間外労働の取り扱いに関しては医療機関ごとに文書化し明確化すること、とされています。自身の所属する医療機関における取り決めの内容を確認されることをおすすめします。

「宿日直許可」が働き方改革の形骸化に寄与してしまう可能性あり?

厚生労働省「医療機関における宿日直許可 申請の前に」によれば、宿日直中に通常と同様の業務(応急患者の診療または入院、患者の死亡や出産への対応など)が生じてしまう場合には、この業務は時間外労働として計上され、時間外労働に対する報酬も発生します。

ただし、特殊な措置を必要としない軽度の又は短時間の業務であること(少数の入院患者や軽傷の外来患者に対する問診や診察が主であり、救急患者への診療は稀である)、宿直の場合には夜間に十分睡眠がとり得ること等を条件として、行政官庁から宿日直許可が適用される場合があります。

宿日直許可が許可された場合には、宿日直中の軽度の又は短時間の業務に関しては労働時間や休憩に関する規定は適用されないこととなります。

現実的には救急車や重症患者が引っ切り無しに押し寄せる過酷な日当直であったとしても、宿日直許可中の軽度の又は短時間の業務とみなされてしまえば、それはいわゆる「寝当直=休憩時間」として扱われてしまいます。

結果として連続勤務時間の上限規定や勤務間インターバル、代償休息などの規定が有名無実化してしまう可能性があります。こちらについても自身の所属する医療機関が宿日直許可を受けているか、現実の日当直業務の実態と乖離が無いか、確認されることをお勧めします。

院外でのバイトは制限される可能性あり

医師は主たる勤務先に加えて別の医療機関でも医業を行うこと、いわゆる「院外のバイト」を行っている事も珍しくありません。

特に基本給が低い事が多い大学病院にお勤めの先生方においては、院外のバイトが収入のほとんどを占める場合もあるので特に気になる項目かと思います。

前述のとおり、常勤の施設に加えて外勤先でも労働を行うために長時間労働が発生する場合には連携B水準に該当するため、月155時間まで、年1860時間までの時間外労働が可能です。

この上限規制に抵触することが無ければ、法的には院外のバイトが制限される事はありません。

大川裕輝

ただし、この上限規制は複数の医療機関で通算されますので、多数の医療機関で頻回に院外のバイトを行っている先生は上限規制に抵触しないように注意しましょう。

またB水準、C-1水準、C-2水準では、1つの施設で月155時間まで、年1860時間までの時間外労働が可能です。しかし連携B水準では1つの施設で月80時間まで、年960時間までの時間外労働に制限されますので、主たる勤務先での時間外労働がこれを超えないように気を付けましょう。

また、現実的には実務上の問題で院外のバイトが制限されてしまう可能性があります。働き方改革が施行されることにより、医師の実労働時間が削減されるため相対的なマンパワー不足に陥ることが推測されます。

大川裕輝

マンパワー不足は医師の絶対数を増やす、医師の科や地方間の不均衡を是正する、タスクシフト・タスクシェアを行うなどの対策により解決すべき問題です。しかし、それらの対策が十分な効果を発揮するまでの間は院外のバイトを制限することにより、院内のマンパワーを確保する対応を取る常勤施設が出現するかもしれません。

働き方改革施行後にも年収を下げないための対策

保険診療を行う医療機関に所属する医師が得る給料の多くは、国庫から供給される診療報酬から供給されています。

昨今の医療費・社会保障費の高騰を受け、診療報酬の伸びは低迷しているため今後医師の年収が上昇していく可能性は低いと考えられます。

医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会 第5次中間とりまとめ(PDF:439KB)」によれば、医師不足を解消するために2008年から医学部定員を増員することで全国レベルでは3500~4000人の医師が増加しており、令和11年には医師の需給が均衡すると推計されています。

医師の給料の総額が変化しないと考えられるのに対して医師数は増加し飽和状態に向かっているため、今後医師の給料は下がっていく可能性が危惧されます。

さらに、働き方改革が施行された後には労働時間の上限規制が発生するため、時間外労働をたくさんこなして「量で稼ぐ」ことが困難になる事が推測されます。

今後、働き方改革が施行された後にも年収を下げないためには労働時間当たりの報酬を上げて「質で稼ぐ」ことが今まで以上に重要になってくると考えられます。具体的には

医師が年収を下げないために
  • 労働時間当たりの報酬が良い常勤施設を探す
  • 院外のバイトへの出向を許容してくれる常勤施設を探す
  • 労働時間当たりの報酬が良いバイト先を探す

等が挙げられます。

非常に多忙な医師業務を続けながら、労働条件の良い求人情報を探し当て、面談を行い、契約に至ることはしばしば困難を伴います。

医師転職エージェントなどを上手に活用し、今後到来が予想される医師飽和時代に備えておくことも必要かもしれません。

まとめ

本記事の結論
  • 働き方改革の目的は「医師たちの健康維持及び医療の質の担保」
  • 医師の給料は今後下がる
  • 医師の院外バイトは制限される可能性あり
  • 年収を下げない為には質で稼ぐことが重要になってくる
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