2024年から施行される医師の働き方改革には多くのメリットがあります。
しかし、その一方で場合によっては、今までと同じようにアルバイトができなくなるかもしれません。
ここでは、その理由だけでなく、2024年以降にアルバイトするための流れまで紹介します。
医師の働き改革が導入された背景とポイント
働き方改革は2024年から全ての業種で導入されますが、医師の働き改革が導入された背景とポイントは下記です。
- 過労死ラインを超える医師が約4割
- 労働生産性を改善するためにタスク・シフトが必要
過労死ラインを超える医師が約4割
今後、国内では人口減少に伴う労働者不足が今まで以上に深刻化します。実際、厚生労働省は、国内の人口は2020年の1億2,615万人から、 2070年には8,700万人に減少すると予測しています。
この労働者不足によって労働者の負担がより重くなり、医師の長時間労働が今まで以上に常態化してしまう危険性があります。
医師の長時間労働は現在でも大きな問題となっており、「令和元年 医師の勤務実態調査」によれば、病院勤務している常勤勤務医の約4割が「過労死ライン」と言われる月80時間以上の残業をしています。またそれだけでなく、残業時間が160時間を超える人も約1割いるのが現状です。
このような長期間に渡る長時間労働は、医療過誤の温床にもなります。そのため医療の安全性を確保するために、医師の働き方改革が必要です。
労働生産性を改善するためにタスク・シフトが必要
現場における医師の業務量は膨大です。しかし、その業務の中には、診療など医師しか行えない業務だけでなく、職種にかかわらず可能な業務が多く存在します。
そこで近年注目されている内容は、医師の業務の中で他の職種に委ねることができる業務を移管するタスク・シフトです。
タスク・シフトを導入・推進することで医師の労働時間短縮につながるだけでなく、診療に集中できるため、より高度に専門性をいかすことができます。
医師の働き方改革は2024年より適用
働き方改革自体は、大企業は2019年4月1日、中小企業は2020年4月1日から施行されていましたが、医業に従事する医師など業務の特性や慣行から5年間の適用猶予期間がありました。
そして、その猶予期間が2024年4月で終了するため、それ以降は医師の働き方改革が適用されます。
この改革により、「勤務医の時間外労働の年間上限は原則960時間とする」「連続勤務時間制限、長時間勤務医師の面接指導などで、勤務医の健康確保を目指す」など、医師の労働時間に関する取り決めを中心に実行される予定です。
しかし、全ての医療機関に一律の決まりがあるのではなく、各医療機関の担う機能や働く医師の特性に応じて下記の水準に分類され、その水準ごとに異なる上限規制が適用されます。
すべての勤務医に原則適用のA水準
一般的な医療機関などで診療を行う勤務医はA水準で、該当する医師の時間外労働は原則として月間100時間未満、年間960時間以内に制限されます。
特例として適用される、B水準・C水準
B水準は、救急病院や救急車の年間受入数1,000台以上の病院など、特に緊急性の高い医療を提供する医療機関や地域医療確保のために必要な役割を果たす医療機関に設定され、時間外労働制限は月間100時間未満・年間1,860時間以下です。
一方、C水準は研修医の研修などを行う医療機関に設定される水準ですが、時間外労働制限はB水準と同じく月間100時間未満・年間1,860時間以下までしか時間外労働ができません。
しかし、B・C水準は、当面の間医師をやむを得ず長時間従事させる必要がある業務があると認められる医療機関である「特定労務管理対象機関」となり、あくまでも特例的な措置になるため、将来的にはA水準を目指す必要があります。
医師はこれまでのようなアルバイトができなくなる
時間外労働の上限規制によって注意が必要な内容があります。
それは、この時間外労働の時間には勤務している医療機関での労働時間だけでなく、医療機関での非常勤・アルバイトの労働時間も含まれている点です。
実際、労働基準法第38条第1項で、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されていることからアルバイト先の医療機関での労働時間も時間外労働に含みます。
そのため、今までのようにアルバイトを続ける場合には、今まで以上に勤務先の医療機関と相談しながらスケジュールを調整する必要があるだけでなく、場合によってはこれまでのようなアルバイトができなくなってしまうことも考えられます。
医療機関は労働時間を管理しないとペナルティがある
時間外労働時間は、医師本人だけでなく勤務先の医療機関も管理しておく必要があります。
勤務先の医療機関が管理を不十分で、医師の時間外労働の上限を超えた場合、医療機関も一般企業と同様に労働基準法第141条により、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられる可能性があります。
ただ、時間外労働を超えていたらすぐにペナルティを受けることは基本的にはなく、下記のような流れが一般的です。
- 労働基準監督署による調査
- 違反が認められた際には、是正勧告・改善指導
- 是正勧告を無視した場合は、法的な処分
このように、すぐに医療機関がペナルティをうけることはありませんが、法令違反をした医療機関は公表される場合があるため、従業員・地域住民からの信用問題となり経営に大きな損害が出てしまいます。
そのため、医療機関は勤務医師の時間外労働時間をしっかり管理して常に把握しておく必要があるだけでなく、万が一時間外労働の上限を超えてしまった場合には、労働監督署の指示に沿って素早く手続きをすることが重要です。
働き方改革が適用外の医師がいる?
今回の「医師の働き方改革」の対象者は、医師資格を保有しているすべての医師というわけではなく下記の医師は適用外です。
- 開業医
- 産業医
- 検診センターの医師
- 大学の教授や研究職など裁量労働制が適用される医師
ただ、働き方改革が適用外の医師でも「働き方改革関連法」による基準は適用されるため注意が必要です。
2024年4月以降のアルバイト探しの流れは?
2024年4月以降に勤務医がアルバイトをする場合は下記の内容を事前に必ず把握しましょう。
- 自分が勤務している医療機関の施設水準を確認する
- 勤務先とアルバイト先の労働時間を合わせた自分の総労働時間を知る
- 施設水準で定められている上限規制を超えないように労働時間を調整する
上記の流れでアルバイトを検討していくことが重要です。さらに労働時間の管理は最終的には勤務先の医療機関に責任があるにもかかわらず、「アルバイト可能な時間」を把握していない医師も多くいます。
そのため、必ず勤務先はもちろんですが、アルバイト先の医療機関にもアルバイト可能な時間などさまざま情報を共有しておきましょう。
まとめ
- 2024年より医師の働き方改革の施行にされるため、今まで以上に時間外労働が厳しく制限される
- この時間外労働の時間には、勤務している医療機関での労働時間だけでなく、医療機関での非常勤・アルバイトの労働時間も含まれる
- アルバイトを行う際は勤務先の医療機関と相談しながらスケジュールを調整する必要がある
- また場合によっては今までと同じようなアルバイトができなくなる可能性があることも理解しておく必要がある
- しかし医師の働き方改革は今まで常態化されていた長時間労働の改善にもつながり、より高度な医療を提供できるようになるなど多くのメリットもある
- 勤務先・アルバイト先の医療機関としっかり情報を共有し、可能な範囲でアルバイトを行うことが重要