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医師の働き方改革による自己研鑽と時間外労働の違いを解説

医師は高度専門職となり、常に新しい知識を取得する必要がありますが、それらの時間は自己研鑽の扱いをされているのが現状です。

しかし、医師の働き方改革が開始される2024年以降はそれらは自己研鑽ではなく、時間外労働になるかもしれません。

今回は、医師の働き方改革による自己研鑽の扱いについて詳しく紹介します。

目次

医師の働き方改革によって時間外労働時間に上限を設ける

近い将来、国内では人口減少に伴う労働者不足が今まで以上に深刻化すると予測されています。その大きな理由として「2025年問題」があります。

「2025年問題」は2025年以降に「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者になることで生じるさまざまな問題のことです。

この「団塊の世代」は、1947年から1949年頃の第1次ベビーブームに生まれた世代のため、全人口割合の約5.3%で約670万人と非常に多くの人がいます。実際、厚生労働省は、2025年には65歳以上が30.3%で約3人に1人、75歳以上が18.1%で約5人に1人になると予想しています。

この高齢化率はその後も上昇し、内閣府によると65歳以上の高齢者が2036年には33.3%、2065年には38.4%となると予測しています。

また、高齢化とともに人口減少に伴う労働者不足も合わせて深刻化します。実際、厚生労働省は、国内の人口は2020年の1億2,615万人から、 2070年には8,700万人に減少すると予測しています。

近い将来に生じる高齢化・労働者不足によって、医師の長時間労働が今まで以上に常態化してしまう危険性があります。

そのため、医師一人ひとりにかかる負担を緩和し、健康を確保しながらゆとりのある働き方ができるように医師の働き方が開始されます。

参考:内閣府「第1章 高齢化の状況」

参考:厚生労働省「将来推計人口(令和5年推計)の概要」

現役医師の勤務状況は過酷

日本の医療は、保険証を提示すれば、「いつでも」「誰でも」必要な医療サービスを受けることができる素晴らしい制度ですが、そのような制度は今まで医師の長時間労働により支えられていたのが現実です。

この医師の長時間労働は大きな問題となっています。

実際、厚生労働省が発表した「令和元年 医師の勤務実態調査」によると、病院勤務している常勤勤務医の37.8%が「過労死ライン」と言われる年960時間(月80時間)以上の時間外労働を行っています。それだけでなく8.5%は、勤過労死ラインの2倍である年1,860時間(月160時間)もの時間外労働を行っていることが分かりました。

参考:厚生労働省「令和元年 医師の勤務実態調査」

どの診療部門別でも過酷な勤務状況となっている

病院常勤医の1週間あたりの労働時間を診療科に分けると下記です。

診療科1週間あたりの
勤務時間
診療科1週間あたりの
勤務時間
内科56時間13分外科61時間54分
小児科54時間15分産婦人科58時間47分
精神科47時間50分皮膚科53時間51分
眼科50時間28分耳鼻咽喉科55時間02分
泌尿器科56時間59分整形外科58時間50分
脳神経外科61時間52分形成外科54時間29分
救急科60時間57分麻酔科54時間06分
放射線科52時間54分リハビリテーション科50時間24分
病理診断科52時間49分臨床検査科46時間10分
総合診療科57時間15分臨床研修医57時間26分

全診療部門の平均は56時間22分となっていることからも過酷な現状がが理解できると思いますが、その中でも、外科・脳神経外科・救急科などは平均の労働時間で月60時間以上となっています。

参考:厚生労働省「令和元年 医師の勤務実態調査」

若い医師は特に労働時間が長くなる

年齢別に比較した医師の労働時間は下記です。今回は平成28年度に行われた同種の調査と比較します。

年齢男性医師女性医師
20歳代61時間34分-3時間25分58時間20分-52分
30歳代61時間54分-1時間57分51時間42分-31分
40歳代59時間34分-1時間32分49時間15分-5分
50歳代56時間16分+48分51時間32分+1時間27分
60歳代47時間20分+2時間3分44時間44分+2時間5分
全世代平均57時間35分-24分52時間16分+44分

全年代平均勤務時間は男性医師が24分減少している一方で、女性医師は44分増加しています。また、世代別にみると男女ともに20〜40歳代で減少し、50〜60歳代以上で増加しています。

20〜40歳代の勤務時間は以前に比べて減少しているものの、1週間あたりの勤務時間は「50〜60時間」と全世代を比較しても最多です。

最も勤務時間が短い60歳代でも一般企業の1週間あたり40時間の労働時間を超えているのが分かります。

参考:厚生労働省「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」

参考:厚生労働省「令和元年 医師の勤務実態調査」

医師の働き方改革によって時間外労働時間の上限が変わる

2024年以降は勤務している医療機関によって、A水準・B水準・C水準の3つに分類され、それぞれの水準によって時間外労働時間の上限が下記のように規制されます。

各水準各医療機関の役割月間の残業時間年間の残業時間
A水準・一般的な医療機関などで診療する医師100時間未満960時間以内
B水準・救急病院や救急車の年間受入数1,000台以上の病院など、緊急性の高い医療を提供する医療機関・地域医療確保のために必要な役割を果たす医療機関100時間未満1,860時間以下
C水準・研修医の研修などを行う医療機関100時間未満1,860時間以下

この時間外労働時間は、医師本人だけでなく、勤務先の医療機関も管理しておく必要があります。

医師が時間外労働時間が超えているにもかかわらず、何も対策を実施しなければ、医療機関も一般企業と同じように「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が労働基準法第141条に規程によって科せられる場合があります。

参考:厚生労働省「時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務」

参考:厚生労働省「時間外労働規制のあり方について③」

今までの実施内容は時間外労働?自己研鑽の扱い?

医師は労働者であると同時に高度専門職のため、勉学・研究・教育など時間外労働として計上していいのか悩む場面があるはずです。

これに関して厚生労働省が発表した「医師の研鑽と労働時間に関する考え方について」で、労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいうとされています。

また、使用者の命令は必ずしも明示されている必要はなく、黙示の指示であってもよいとなっています。

この考えより下記のような時間は、労働時間として扱う必要があります。

労働時間として扱う必要のある項目
  • 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
  • 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
  • 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

参考:厚生労働省「医師の研鑽と労働時間に関する考え方について」

自己研鑽の場合は労働時間に該当しない

下記の基準を両方とも満たせば自己研鑽であると認定され、その場合は労働時間に該当しません。

労働時間に該当しない条件
  • 労働から離れることが保障されている状態で行われている
  • 就業規則上の制裁等の不利益取扱いによる実施の強制がないなど、自由な意思に基づき実施されている

これらの条件に該当するためには、所定労働時間外であるとともに、自分の意思ですぐに終了することができる必要があります。

労働時間か自己研鑽かの判断は、業務内容ではなく労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価されることができるか否かにより客観的に定められます。

そのため、医師の研鑽について、労働に該当する範囲を医師・上司・使用者が明確に認識するとともに、時間外労働と区別するために自己研鑽を行う場合は自ら上司に申し出ることが重要です。

場面によって労働時間・自己研鑽のどちらにも扱われる項目は下記などがあります。

自己研鑽・労働時間のどちらにも扱われるもの
  • 診療ガイドラインについての勉強
  • 新しい治療法や新薬についての勉強
  • 自らが術者等である手術や処置等についての予習や振り返り
  • 学会や外部の勉強会への参加、発表準備等
  • 院内勉強会への参加、発表準備等
  • 本来業務とは区別された臨床研究にかかる診療データの整理、症例報告の作成、論文執筆等
  • 大学院の受験勉強
  • 専門医の取得・更新にかかる症例報告作成、講習会受講等
  • 症例経験や上司・先輩が術者である手術・処置等の見学の機会を確保するために、当直シフト外で時間外に待機し、診療や見学を行うこと

参考:厚生労働省「医師の研鑽と労働時間に関する考え方について」

医師の「自己研鑽」のあり方について議論される背景

2022年5月に当時26歳の専攻医が過労自殺する事件がおこり、この事件をきっかけに、医師の「自己研鑽」のあり方について議論されています。

実際、労働基準監督署が調査した結果では、自殺する以前の時間外労働は1ヵ月207時間50分で過労死ラインを大きく上回っただけでなく、自殺するまでに100日連続で休みなく勤務していたことも分かりました。

しかし、勤務していた医療機関は自己申告していた時間外労働は30時間30分で、発表された時間外労働時間は自己研鑽の時間も含まれていると反論しました。

このように労働時間・自己研鑽のどちらに該当するのかを考え方を示す必要があると話し合われた結果、今回改めて厚生労働省は指針を提示しました。

まとめ

本記事のまとめ
  • 自己研鑽は時間外労働には含まれない
  • しかし、業務内容で時間外労働なのか自己研鑽なのかは決まっていない
  • 自己研鑽と認定するには、所定労働時間外であるとともに、自分の意思ですぐに終了することができる必要がある
  • 2024年以降は医師の時間外労働の管理は今まで以上に重要
  • そのためいつも行っている内容は自己研鑽・時間外労働どちらに該当するか一度見直すことが重要
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